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丸正酢醸造元

(まるしょう す じょうぞうもと)

那智勝浦町が誇る伝統の酢づくり

丸正酢醸造元は、和歌山県那智勝浦町にある老舗の酢醸造蔵です。明治12年(1879年)の創業以来、140年以上にわたり伝統的な古式醸造を守り続けてきました。熊野の豊かな自然と信仰文化に育まれたこの蔵では、那智山系の伏流水と熊野杉の木桶を用い、昔ながらの製法で丁寧に酢を醸しています。

世界遺産・熊野古道や那智の滝で知られる那智勝浦町には、自然の恵みを活かした数多くの文化が息づいています。その中でも丸正酢醸造元は、熊野の自然と伝統技術を今に伝える貴重な存在として、多くの人々に親しまれています。

熊野の名水が生み出すまろやかな味わい

丸正酢醸造元の酢づくりに欠かせないのが、那智山系から湧き出る伏流水です。この水は、熊野那智大社別宮・飛瀧神社の御神体として崇められる那智の滝と同じ水源を持つ名水として知られています。

硬度22度という非常にやわらかな軟水で、一年を通じて約16度という安定した水温を保っています。そのため雑味のない柔らかな口当たりを生み出し、酢本来の豊かな香りとまろやかな旨味を引き立てています。

蔵の敷地内には創業当時から使われている井戸があり、江戸時代から湧き続けるこの水は、一度も枯れたことがないと伝えられています。蔵人たちはこの水を「命の水」として大切にし、毎日感謝を捧げながら酢づくりに取り組んでいます。

創業以来変わらない熊野杉の木桶

丸正酢醸造元の大きな特徴は、創業以来受け継がれている熊野杉の木桶を使用していることです。仕込み蔵には直径・高さともに2メートルを超える巨大な木桶が並び、その多くが長年大切に修繕されながら使われています。

熊野杉は木目が細かく、水漏れしにくい特性を持っています。また木桶は呼吸をするため、発酵に必要な微生物が住み着きやすい理想的な環境を作り出します。蔵に棲み続ける酵母や酢酸菌が代々受け継がれ、丸正酢ならではの風味を育てています。

戦後、多くの醸造業者がホーロータンクやポリタンクによる大量生産へ移行しました。しかし丸正酢醸造元は、木桶と新しいタンクで実際に酢を造り比較した結果、香りや旨味、コクの豊かさにおいて木桶が優れていることを確認しました。

それ以来、「本当においしい酢を造るためには木桶が必要である」という信念のもと、伝統的な製法を守り続けています。

自然の力を活かした古式醸造

丸正酢醸造元で受け継がれている古式醸造は、自然の力を最大限に活用した昔ながらの製法です。原料となる米には熊野地方で育てられた低農薬米を使用し、蒸した米に麹と伏流水を加えて仕込みます。

発酵の工程では、人工的に菌を管理するのではなく、木桶や蔵に住み着く天然の酵母や酢酸菌の力を利用します。季節や気温、水温、菌の状態によって発酵の進み方が変わるため、職人たちは長年の経験をもとに細やかな管理を行います。

発酵した桶の中は冬でも約40度に保たれます。木桶に菰(こも)を巻いて温度を調整しながら、冬は約45日、夏は約70日かけて静かに発酵を進めます。その後さらに4~5か月以上熟成を行い、豊かな旨味と深いコクを育てていきます。

熟成期間は商品によって異なり、長いものでは500日以上もの歳月をかけて仕上げられます。時間と手間を惜しまない製法こそが、丸正酢の品質を支えているのです。

受け継がれる酢づくりの工程

米蒸し

酢づくりは原料となる米を蒸すことから始まります。甑(こしき)を使って丁寧に蒸し上げる工程は、酢の出来を左右する最も重要な作業のひとつです。吸水の加減や蒸し時間には細心の注意が払われています。

仕込みと発酵

蒸した米に種酢と伏流水を加え、大きな木桶の中で櫂(かい)を使いながら丁寧に混ぜ合わせます。その後、自然の酵母によるアルコール発酵と酢酸菌による酢酸発酵が進み、少しずつ酢へと変化していきます。

熟成

発酵を終えた酢はさらに長期間熟成されます。熟成によって酸味がまろやかになり、深いコクと豊かな香りが生まれます。自然のリズムに合わせてゆっくりと育てられるため、一つひとつの桶の状態を職人が見極めながら管理しています。

瓶詰め・検品

十分に熟成した酢は加熱処理を行い、一本一本丁寧に瓶詰めされます。その後、不純物が混入していないか厳しい検品が行われ、品質が確認された製品のみが出荷されます。

苦難を乗り越え守り続けた伝統

丸正酢醸造元の歴史は決して平坦なものではありませんでした。戦後の混乱期には原料不足に苦しみ、さらに長期間使われなかった木桶では酢酸菌がうまく育たないという問題も発生しました。

しかし当時の蔵人たちは他の蔵から菌を分けてもらい、何度も仕込みを繰り返しながら菌を定着させることに成功しました。その努力によって伝統の木桶醸造は途切れることなく現在まで受け継がれています。

また、機械化による大量生産の波が押し寄せた時代にも品質を優先し続けました。効率よりも本物の味を守ることを選び、熊野の風土とともに歩み続けてきたのです。

世界が認めた「那智黒米寿」

丸正酢醸造元を代表する商品のひとつが那智黒米寿(なちくろこめす)です。これはもち玄米だけを原料に使用し、那智山系の伏流水と熊野杉の木桶による古式醸造で約500日かけて仕上げる特別な黒酢です。

誕生のきっかけは、マクロビオティックの世界的権威である久司道夫氏から「もち米で酢を造ってほしい」という依頼でした。当時は酢造りに向かないと考えられていたもち玄米でしたが、試行錯誤の末に完成させた世界でも珍しい黒酢として高い評価を受けています。

その品質は世界的にも認められ、モンド・セレクション最高金賞を2007年から13年連続で受賞しました。現在ではフランスやイタリアをはじめとするヨーロッパ諸国、アメリカ、中国、台湾、シンガポール、オーストラリアなど世界各地へ輸出されています。

観光で訪れたい熊野の醸造文化

那智勝浦町を訪れる際には、熊野古道や那智の滝だけでなく、地域に根付く伝統産業にもぜひ目を向けてみてください。丸正酢醸造元は、熊野の自然と歴史、人々の知恵が結晶した貴重な文化遺産ともいえる存在です。

那智山の伏流水、熊野杉の木桶、蔵に生き続ける微生物、そして職人たちの技と情熱。それらすべてが一体となって生み出される酢は、単なる調味料ではなく熊野の風土そのものを味わうことができる逸品です。

長い歴史の中で培われた伝統と品質へのこだわりを守り続ける丸正酢醸造元。那智勝浦町を訪れた際には、その奥深い酢づくりの世界に触れ、熊野ならではの味わいをぜひ堪能してみてはいかがでしょうか。

Information

名称
丸正酢醸造元
(まるしょう す じょうぞうもと)

那智勝浦・新宮・本宮

和歌山県